子宮頸がんワクチンのいま 2019年6月24日(月) おはよう日本より
若い女性の間で増加傾向にある子宮頸(けい)がん。
20代と30代で、年間2,000人がかかっています。
このがんは、主に性交渉などでウイルスに感染することで発症します。
このウイルスの感染を予防するのが、「子宮頸がんワクチン」です。
6年前、国は原則無料で受けられる定期接種に加えましたが、直後から体の痛みなどを訴える人が相次ぎました。最大で70%以上あった接種率は、今や1%未満に激減。
その存在すら知らない人も出てきています。
子宮頸がんワクチンは、国が6年前、はしかや風疹などと同じ、公費で助成する定期接種に加え、小学校6年生から高校1年生までの女の子を対象に、積極的な接種を呼びかけました。
ところが直後から、痛みや腫れなどの副反応が出たと訴える人が相次ぎ、まれに呼吸困難や手足に力が入らなくなったという人も出ました。国は、積極的な接種の呼びかけをわずか2か月で中止しました。丸6年、その状況はほとんど変わっていません。
国
は、ワクチンを無料で受けられる定期接種に残しながら、積極的な接種の呼びかけは中止したままという、異例の状態を続けています。「今のままでは、ワクチ
ンを知らずに、対象年齢を過ぎてしまう人も出てくる」。そんな危機感を持った自治体の間で、ワクチンを周知していこうという取り組みが少しずつ広がってい
ます。
“まずは存在を知ってほしい” 現場の模索
兵庫県姫路市の学校です。この日は中学1年生の授業で、保健師がワクチンについて説明しました。
保健師 中原雅子さん
「感染する前に受けるってことが大事でして、感染した後では効果はないといわれています。」
ワクチンのメリットだけでなく、接種後の副反応についても紹介しました。
市は現在、こうした取り組みをすべての中学校で進めています。
保健師 中原雅子さん 「思春期の時に知って頂きたい。
受ける受けないを決めて頂く判断材料にするために取り組んでいます。」
岡山県では、今月(6月)から、地元の産婦人科医の協力のもと、ワクチンを周知するリーフレットの作成に取りかかっています。
メリットとリスクを併記した上で、年内にも、学校などを通じて保護者や子どもたちに配るほか、ホームページも開設する予定です。県は、国の対応を待っていては、必要な情報が伝わらないと考えています。
岡山県 保健福祉部 中谷祐貴子部長
「国は、今は積極的な周知ができないってことだけで、ほとんど何もしなくなっているので、最低限の正しい知識を普及するのは行政の役割ではないかと思ったのが、この事業を始めたきっかけです。」
このように動きだしたのは、ほんの一部で、多くの自治体は、国の動きを見守っている状況です。
国は、ワクチンは、がんの予防が期待できるというメリットがある一方で、副反応を起こしたきっかけとなったことも否定できないとしているので、個人の判断で接種するかどうか決めて欲しいとしています。
では、何を基準に判断するのか。
国があげているのが次の数字です。ワクチンの接種で、10万人あたり最大859人が子宮頸がんになることを回避できると期待されるとしています。
また、イギリスなど世界70か国でも定期接種に導入していて、海外の疫学調査では、ウイルスへの感染率が最大で6割減るなどという報告もあるということです。
一方、おととし8月までに副反応が出た疑いがある人は3,130人いました。
いまはさらに増えて3,400人あまりとなっています。
この3,130人、10万人あたりでは92.1人となります。
副反応が出た患者などで作る団体は、「接種後に学校に行けなくなるほど重篤な患者もいる上、海外でも接種によって被害を受け、訴訟になっているケースもある」と指摘しています。
このため、「国は積極的な接種の呼びかけを再開すべきだ」という声と、逆に、「定期接種から外すべきだ」という声もあります。
接種の判断は…
接種の現場を取材すると、ワクチンの説明を受けても、判断に迷うという人が多くいることも分かってきました。
静岡市にある病院では、対象年齢の子どもが来るたびに子宮頸がんワクチンを紹介しています。
こちらの親子は判断に迷い、同級生の母親たちにも相談しましたが、副反応への心配が残るため、ワクチンを打つという人はほとんどいませんでした。
接種を見送った母親
「やはり子どもに打つとなるとすごい心配なところが出てきて。」
一方、詳しい説明を聞いた上で、親子で話し合い、接種を決めた人もいます。
接種を決めた母親
「やっぱり自分で判断するしかないのかなと思って、本人と話したら私はやっても良いと言ったので、じゃあやってみようと。」
接種を決めた子ども
「子宮頸がんになるよりは打った方がいいかなって思った。」
この病院で、これまでに接種を決めたのは2割。8割は答えが出せないままでした。
それでも医師は、例え判断が難しくても、一人一人に接種するかどうか考えてもらうことが大切だと感じています。
静岡厚生病院 小児科 田中敏博医師
「判断材料をきちっと提示をして、どうします?と情報の提供すらしないで、将来的にその子が子宮頸がんになった。それはあまりにも患者さんに対して申し訳ないと思う。」
国は、接種は個人が判断してほしいと呼びかけていますが、難しいと考えている人がいることと、きちんと向き合わないといけないと思います。
専門家の中には、「今の状態のまま国が何もしない」ということは絶対に避けるべきだと指摘する人もいます。
ワクチンを接種した方がよいのか、しない方がよいのか。
国はその判断材料や、評価を提示する努力を続けてほしいものです。
**************************以上 おはよう日本より
下記もご参照ください
「10万個の子宮」村中氏 ジョン・マドックス賞受賞
子宮頸がん予防ワクチンについての考え方
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HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(子宮頸がんなどの予防ワクチン)
日本で使用されている子宮頸がんなどのヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するワクチンは、サーバリックス(GSK社)とガーダシル(MSD社)の2種類があり、いずれも女性に接種します。日本では、サーバリックスが2009年12月に、ガーダシルが2011年8月に発売となりました。2013年度から定期接種になりました。
予防するVPD:『サーバリックス』は、子宮頸がんなどを起こすヒトパピローマウイルス感染症(16,18型) を予防します。
『ガーダシル』は、子宮頸がんなどを起こすヒトパピローマウイルス感染症(16,18型) と尖圭(せんけい)コンジローマなどを起こすヒトパピローマウイルス感染症(6,11型)を予防します。
(海外では既に9価のワクチンが使用され男子にも接種が始まっています。)
おすすめの受け方
サーバリックス(2価):中学1年生で接種をはじめ、初回接種の1か月後に2回目、初回接種の6か月後に3回目を接種します。
ガーダシル(4価):中学1年生で接種をはじめ、初回接種の2か月後に2回目、初回接種の6か月後に3回目を接種します。
ワクチンの効果
いずれのワクチン
もワクチンに含まれているタイプのヒトパピローマウイルス感染症を防ぎ、子宮頸がんなどの発病を予防します。子宮頸がんを引き起こすウイルスには多くの型
があり、できる免疫が弱いので、一度だけでなく何回かかかることもあります。ワクチンの種類によって効果のあるウイルスの型が異なり予防できるVPDが異なります。
サーバリックスは子宮頸がんの原因ウイルスの2つの型に効果があり、ガーダシルはさらに尖圭(せんけい)コンジローマの原因ウイルスの2つが追加され4つの型に効果があります。両ワクチンともに、効果は20年くらい続くと予想されており、追加接種は不要と考えられています。本当にそうかどうかは、日本より7~8年前からワクチン接種をはじめた欧米の結果を参考にすることができます。いずれにしても、ワクチンに含まれていないタイプのウイルスによる子宮頸がんもありますので、必ず子宮がん検診を受けてください。検診を受ける率は、欧米では約80%ですが、日本ではなんと約20%とたいへん低いのが問題です。ワクチンを受けた方でも20歳過ぎたらすべての女性は子宮がん検診を受けることが大切です。
HPV(子宮頸がん予防)ワクチンの現状についての考え方
子宮頸がんは、性交渉によってヒトパピローマウイルスに感染し、持続感染することでがん化する病気です。日本での患者数は年間約1万人、20代後半から増加し40代以降は概ね横ばいになります。早期に発見されれば比較的治療しやすいといわれていますが、がんであることには変わりがなく年間約3,000人が死亡しています。最近では、20代から30代で患者さんが増えています。日本では、ヒトパピローマウイルスワクチンは2013年4月に中学1年生から高校1年生までを対象に定期接種となりました。2013年6月にワクチン接種後の原因不明の慢性疼痛などを伴う有害事象報告があり、一時的に”積極的な接種勧奨”が中止されました。
2018年8月にワクチンの有害事象の実態把握と解析、接種後に生じた症状に対する報告体制と診療・相談体制の確立、健康被害を受けた被接種者に対する救済などの対策が講じられたことを受けて、日本小児科学会は積極的接種を推奨するとしました。
しかしその後も接種率は十分に上がることなく経過しています。
このワクチンの存在すら知らない人が増えてきています。
定期接種の進んでいる国では、子宮頸がんの発症が明らかに抑えられてきています。
情報を得られずに、高価なワクチンの無料接種の機会を逃してしまう前にご相談ください。
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HPVワクチンに関する声明・調査結果
◆世界保健機関の諮問委員会(2015年12月)
世界保健機関(WHO)のワクチンの安全性に関する諮問委員会(GACVS)は、「乏しいエビデンスに基づく政策決定」と日本の判断を名指しで非難しました。また200万人以上を対象にフランスで実施された調査結果を紹介しCRPS(複合性局所疼痛症候群)、POTS(体位性起立性頻拍症候群)、自己免疫疾患の発生率は接種者と一般集団で差がないとし、「仮にリスクがあったとしても小さく、長期に及ぶがん予防というベネフィットを考慮すべき」と言及しました。
◆予防接種推進専門協議会(2016年4月18日)
予防接種・ワクチンに関連する15学術団体で構成される予防接種推進専門協議会は、「HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解」として、下記の3つの根拠とともに早急なHPVワクチンの積極的な接種推奨の再開を要望しました。
①すでにワクチンを導入している欧米諸国で、導入後3-4年間で子宮頸がんの前がん病変の発生率が半減したとの報告があること。一方、日本国内での子宮頸がんによる死亡率は増加傾向にあること。
②日本で報告された有害事象の未回復者の発生率は10万接種あたり2人であること。欧州の健康当局、フランスの大規模調査報告からCRPS(複合性局所疼痛症候群)、POTS(体位性起立性頻拍症候群)、自己免疫疾患の発生率は接種者と一般集団で差がないこと。
③接種再開にあたって不可欠となる接種後に生じた症状に対する診療 体制・相談体制などの専門機関が全国的に整備されたこと。
◆名古屋市「子宮頸がん予防接種調査」結果(2016年6月)
昨年の9月に名古屋市が実施した「子宮頸がん予防接種調査」の結果が発表されました。これは市内在住の中学3年生から大学3年生相当の年齢の女性を対象とした、HPVワクチンの未接種者も含めた全国初の大規模な調査であり、ワクチン接種と有害事象の因果関係を解明するうえでたいへん注目されました。名古屋市がウェブサイトに公開した調査結果の「身体症状とHPVワクチンの接種の有無のクロス集計」からは、ワクチン接種者と一般集団に有害事象の発生に有意差は認められていません。
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しかしながら、マスコミがこれらを積極的に報道する機会が少ないため、一般の保護者や中高生本人には情報が届いていません。積極的勧奨を中止している現在、HPVワ
クチンの接種希望者はごくわずかであり、このままではワクチンによる子宮頸がんの患者数および死亡者数減少という成果は期待できません。今後、検診の受診
率が向上して子宮頸がんによる死亡者数が減少しても、検診で子宮頸がんやその前がん状態が発見されれば、多くの女性が心身に大きなダメージを負うことに変
わりはありません。HPVワクチンを広く接種している他の国と同様にHPVから女性たちを守るためには、早急な積極的勧奨の再開が必要です。
積極的勧奨が再開されたからといって、すぐにHPVワクチンに対する認識が変わるものではありません。ワクチンへの不信感を払しょくし、接種率を上げることは容易ではありません。だからこそ、積極的勧奨が再開された際には、国、地方自治体、医療機関そしてメディアがHPVワクチンの信頼回復にむけて一丸となることが重要です。
子宮頸がんは命に関わるVPDです。日本では副反応ばかりが大々的に報じられがちで、VPDのこわさは伝わりません。かけがえのない子どもたちの健康や未来を守るには、接種することのリスクとVPDにかかることのリスクを比較して冷静に判断することが必要です。保護者だけでなく、ワクチンを受ける思春期の子どもたち自身が予防接種の必要性を十分に理解することも大切です。
2016年8月22日
NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会
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